最初のコラムで紹介した「鬱は心の風邪です」キャンペーンは、
当初、鬱に対する社会的なハードルを下げた
とても良いものだと思いました。当時の私は。
そして現在。ネットで鬱を検索すると、山のように出てくるこんな相談。
「鬱で長年薬を飲んでいます。なのによくなりません」
鬱は心の風邪です、薬を飲んで治しましょう。
そう言われているはずなのに、なぜ薬を飲んでるのに治らないのか?
数年前から私は催眠を用いた鬱治療で世界的に有名な
マイケル・D・ヤプコ博士の講座を何度も受けてきました。
ヤプコ博士はアメリカ在の臨床心理学者です。
講座を受け、博士の著書を読み、色々調べてみたら心底オドロイタ。
学術的な研究結果において、抗うつ剤の効果は
私達素人が思っているよりも全然低いらしい、ということに。
現在、抗うつ剤はSSRIという種類の薬がほぼ主流となっています。
(製品名 パキシル、レクサプロ、ジェイゾロフト 等々)
しかしこれらの薬の効果については、なんと2008年の時点で
「プラセボ(偽薬)効果をわずかに上回る程度の効果」しかなかった
との調査結果が世界の権威ある大学・研究機関から多々報告されていたのです。
●抗うつ剤使用によって、うつ症状が改善する率が3割ほどある一方、悪化する例が3割(※1)
●脳は、服薬した薬ではなく「服薬によって変化が起こるだろうという期待」に
反応することで変化している(※2)
●軽・中程度のうつ病には、抗うつ薬には効果がみられない。
効果が見られたのは最重症のグループのみ(※3)
●SSRI先駆者であったパキシルの本来の効果は、
製薬会社が主張していた効果のたった17%であり、
残り83%の改善効果はプラセボ効果や自然経過によるものだった(※4)
上記以外にもあまりに多数の専門家による研究結果が報告されたため、
2012年に作成された日本うつ病学会による診療ガイドラインでは、
軽症のうつ病に対して、必ずしも抗うつ薬は第一選択ではないと明記しています。
しかしながら、今の日本、いや先進国のほとんどで、
鬱や心身症を訴えて病院へ行った人はほぼ100%、
抗うつ剤を処方されると言っても過言ではないでしょう。
なんならいまやPMSやPMDD(月経・女性ホルモンに関わる症状)でも
抗うつ剤が処方されています。同じく女性に多い摂食障害についても、
日本では当然のように抗うつ剤が処方されます。
しかし摂食障害には、いかなる薬物治療の利益も示されていないとの
報告があるにも関わらず、半数近い患者は抗うつ剤を処方されています(※5)
効かない薬が、なぜこうも医療現場にばらまかれることになったのか?
そこで最初のコラムに書いた「鬱は心の風邪です」のキャッチコピーです。
これはSSRIが市場に出回りはじめた当時、発売した製薬会社による強力な、
そして歪曲されたセールス宣伝によるものだったと数多くの専門家が
声高に警鐘を鳴らしています。
(現在までに権威ある研究機関からの無数の研究論文、そして書籍が発刊)
特に、パキシルを販売した製薬会社は、その効果の偽証宣伝と、
重篤な研究結果の隠蔽などの違反を理由にアメリカ司法省から
30億ドル(約3000億円!)の罰金を命じられてまでいます。
この製薬会社による偏った、しかし大々的な宣伝によって、
私たちの日常の精神的な問題、いわゆるストレスは、
脳内の化学的不均衡(例:セロトニン不足)によって起きるものであり、
薬を飲めば解決できるという間違った認識が定着してしまったわけです。
結果として、抗うつ剤の世界市場は爆発的な広がりを見せ、
飲んでも効かない薬が湯水のように処方され、
その勢いはとどまることを知りません。
抗うつ剤の効果を反証する研究や論文、
そして当時の製薬会社の逸脱した広告宣伝については、
ちょっとネット検索するだけで山のように出てきます。
てっとり早く、ウィキペディアで「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」、
「パロキセチン」、「病気喧伝」、「抗うつ薬#議論」
の項目を読んでみましょう。
欧米ではもう10年以上前から、抗うつ剤の効果が疑問視され、
大変激しい議論が巻き起こっています。
いまや、抗うつ薬は脳内の化学的不均衡を正すという名目で処方されるが、
科学的な根拠は無い。とまで言われています。
かといって、多数の専門家は、薬を服用することを
全否定しているわけではありません。
「鬱は薬だけでは治らない」と強く主張する前述のヤプコ博士も、
身体症状(不眠・食欲不振・発作等)が強く出ているときには
服用した方が良いと言っています。
ただし、薬は優れた心理療法以上の効果はない、ということを
理解した上で服用することが必要だということです。
ですから、薬を飲むということだけではなく、
もっと他のことにも着目していくことが大事なんですよね。
ただ、薬が効くことを待つだけでなく。
ただ、薬さえ飲んでいれば治ると妄信することではなく。
出典
※1 Wikipedia
※2 2006年、UCLA神経精神医学研究所
※3 2010年、米国ペンシルバニア大学他3大学
※4 2008年、効果偽証に対する制裁によって公開されたパキシルの未公開試験を元にした分析 世界保健機構
※5 2012年摂食障害国際ジャーナル誌
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