前項で触れましたが、男性性は主に父性に象徴され、女性性は主に母性に象徴されます。かといって、必ず お父さん=男性性 と限られるわけではありません。女性性の方が強いお父さんもいますし、逆もまた然りです。離婚や死別などで、一人の親御さんに育てられた場合は、一人の親御さんが両性のエネルギーを子に与えます。ここでは、わかりやすい説明のために便宜的に(または昭和的に・(笑))「男性性=お父さん」「女性性=お母さん」として説明します。
男性性は自らがエネルギーを発揮して進む力です。それが家族の中ではどのように作用するのか。父親の発揮する男性性は「与える」「率いる」「評価する(認める)」というエネルギーです。子供は父親から愛情を「与えて」もらい、そして適切な指導、手助けによって子供の成長を「率いて」もらい、子供の努力を「認めて」もらって育ちます。
「(愛情や手助けを)与えてもらう」
大人になった今、自分の頭のどこかにこんな言葉が常にある人はいませんか。
「誰も私を好きになってくれない」
「誰も私に興味をもってくれない」
「誰も助けてくれない」
仕事から帰ってきても私に話しかけてくれなかったお父さん。遊びに連れてってくれなかったお父さん。困っていても助けてくれなかったお父さん。よくあるパターンですね。これはすべて、愛情や手助けを「与えてもらえなかった」という意味です。
「率いて=適切に指導してもらう」
父親が与える適切な指導とは、例えば、子供の言動に対して養育者として善良で肯定的な態度で教育する、罰するだけではなく「支援と励まし」を与えていくということです。そして、できなくて困っている子供にやり方を教えてあげたり、見本を示すことです。右も左もわからない小さな子供は、このような指導や手助けを得て、自分の力で物事に対処できるようになっていくのです。
しかし、これらを父親から適切に与えてもらえなかった場合。例えば、子供の言動を頭ごなしに否定したり、小さな子供が恐怖を感じるような罰し方をすると、子どもは自らの主張や行動を自由に発することを恐れるようになります。それが度重なると子供は「自分は間違っている」「また怒らせてしまう」と、自発性を発揮することに委縮したり、自発そのものが悪いことだと否定・封印し、結果、何もできない子供になります。父親が率いる方向や結果を鵜呑みにし、それに従わなければいけないのだという恐れに支配された子供になります。男性性のリーダーシップが「支配」に変わってしまった結果です。
「認めてもらう(=良い評価を得る)」
自分の力で何かを成し遂げたことを父親からほめてもらえると、子供は自信を得ます。自分の能力や頑張りをポジティブに評価してもらえたことで、自分の言動や進む道に自信をもって進むことができるようになります。
しかし、父親が求める結果を出せなかった場合、子供は自分を「出来ない子だ」「期待に沿えなかった落第者だ」「頑張りが足りないんだ」と自分の存在や能力に自信を無くします。父親が求めるレベルに達しない自分では「出来ない自分は、愛してもらえない存在だ」と、自分の存在に価値を見出せない子供になります。そして、父親に悪い評価を下される、つまりダメ出しされることが繰り返されると、子供は自分でも自分にダメ出しをし始めます。父親の「ダメ出しをする」という「行為の見本」を模倣するのです。こうして、自分はどんなに頑張っても足りない、ちゃんとできていない、と思うようになります。なぜなら、認めてもらった(褒めてもらった)ことがないからです。際限なく自分を厳しく制し、厳しく評価し続けます。こういう子は、当然ながら人からの評価も重要視しますから、社会的に「こうであるべき」とされる、様々な一般常識や慣習、良しとされるルールを絶対的に遵守します。たとえそれが本人にとって牢獄のようなものであってもです。そうしないと(父親に)「怒られる」からです。
この父親との関係性の経験は、社会に出る頃になるとそのまま自分と社会、自分と他者&異性への解釈にスライドします。
「私は誰からも好かれていない」
「私は人から好かれる自信がない」
「誰も助けてくれない」
「社会(人生)は厳しいものだ」
「チャンスは与えてもらえない・チャンスなど無い」
「私はダメな人間だ(=だから人・会社から認めてもらえない)」
「もっと頑張らないとダメだ(=そうでないと私は人から認めてもらえない)」
「私の行いが悪くて怒られるのではないか」
若者が就職をしたとき、理想の上司とされるのはどんな上司でしょうか。仕事を丁寧に教え、手本を示し、励まし、成果を認めてくれる。幼少期は家庭の父親が、社会に出たときには上司が、適切に男性性を発揮することで子供や若者は健全に成長できるということです。
子供が父親から男性性が健全な形で与えられなかった場合、子供は自分の男性性を上手に発揮できなくなります。男性性は自己を主張し、行動していく力ですから、子供は自分の言いたいこと・やりたいことをうまく発揮できなくなり、自分の意見や判断に自信を持てなくなります。自分が何かを主張するとき、行動するときにいつも「これでいいのだろうか」と緊張したり、自分にはできないと卑下する人、そして、何故かいつも誰かに怒られるのではとびくびくしていたり、自分に過剰にダメ出しをする人は大抵、お父さんが厳しく、子供を認めてくれなかった家庭の子供なのです。
なお、男性性の質を「私は母親から与えられた(与えてもらえなかった)」と振り返る人もいるでしょう。これは、日本では育児の大部分を母親が担当しているからです。前述したように、男性性・女性性はあくまで「エネルギーの質」の違いであり、母親が女性性だけを発揮するわけではなく、男性性・女性性双方を発揮します。ですから、教育に熱心であったり、躾に厳しい母親は子供に対して男性性、つまり「教師」「指導者」の側面を強く発揮したということです。
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